※この話は全年齢だけど肉体関係(クロボー)ある設定注意※

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 隣の部屋もどうやら寝静まった頃、クロードはベストの裾に手を差し込み、シャツの布越しに厚い胸板を撫でる。
 ん、と呼吸を漏らしながらボーマンもネクタイを自分から解く。しゅるりと布を擦る音が興奮を擽った。
 だが、その声は乾いていた。
「今日は、やめとこうぜ」
 ワイシャツのボタンをひとつ外すが、乗り気でないふり、ではなさそうだった。
「疲れてるんだよ。ダンジョン歩き回って、デケェ機械ぶっ潰して、……。体力尽き果ててんだよ」
 確かに今日は勇気の場の試練を片付けた。
 洞窟の閉鎖的な内部、後戻りすればすぐに行き先の分からなくなる道、折れる巨大な柱、強大なロボット。
 更にボーマンは食料調達のサバイバルや、拾った薬草での調合も担当していた。
 疲れない筈がない。
 だが、先日の力の場や知の場では、ここまでではなかった。
 その晩は、凍える雪を忘れるように抱き締めた。あの晩は、鏡に映る姿を楽しんだ。
「僕とじゃゆっくり休めませんか?」
「別にお前のことが嫌になったわけじゃねぇよ。むしろその逆……、いや、なんでもねぇ」
 その逆。
 その逆を、思うようなきっかけ。
「何を見たんですか?」
 クロードの言葉にボーマンは、眉間にしわを寄せて笑う。
「なんのことだよ」
 祭壇でボーマンの見たものが、彼を疲れさせているのだろう。
 黙ってしばし見つめれば観念したように、ボーマンはネクタイを持ったままの手をひらひらと振る。
「クロードのことも、ちゃんと考えてやらねぇとな」
 そして、微かに唇を重ねてきた。欲望の感じない、少し物足りない筈の口づけ。
 だがそれだけで、クロードは何も言えなくなる。既に離れた肌の温もりが、封じてくるように。
 まるで、愛されているかのような、キスだった。
「残りの愛の場も全部終わったら、また相手してやるからよ。ちょっとお預けにさせろ」
「……終わったら、ですか」
 この場が終われば、先日言っていたように、ナール市長に『エクスペルの事情』を聞くだろう。
 きっと、真相は彼らに語られる。
 その瞬間までが、エクスペルから続く爛れた関係のデッドラインだという予感はあった。
 仲間の内ではクロード一人だけが知る事実では、ボーマンの愛する者は今まさにこの世にいない。
 知ってしまえばきっと、ボーマンは『彼女』のことだけで頭が満たされることだろう。
 こうして目の前にいる、傍にいるクロードのことさえ忘れてしまえるのだろう。
「そのときにクロードのしたいやつ、つき合ってやるからよ。痛い奴はダメだぞ」
 この約束も簡単に忘れるのだろう。
 それでもクロードは、疲れているボーマンの首筋に優しいキスを落とした。これはただ、彼の真似でしかない。
 勇気の場で彼が、どんな勇気を求められたのか、それは分からない。
 だが、悲しむ彼にどんな勇ましさを見せれば救えるのか。それも、分からなかった。
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150902

(続きではないですが、愛の場はこちらの漫画

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