「いた、いたたっ! やめてよっ、あっ、ちょっとぉ!」
 床の開いた箱庭、人形劇で繰り広げられる、龍退治の物語。
 ちょっぴり気弱な二刀流の騎士さまが、ちょっぴり勝気なお姫様を救い出し、物語はクライマックス!
 黒幕の双頭龍へといざ、刃を向ける!
 ……のはいいのだが、姫もろとも哀れフルボッコ中。
 舞台は舞台のみならず、箱全体がガタガタと龍たちの動きと共に大暴れ。
 人形たちの悲鳴も、先ほどまでの棒読み台詞とは打って変わり、やたらと心が篭っていた。
 演者の想定外な展開に、観客である子ども達の笑い声と声援は、あからさまに大反響。
 後ろで見守る、大人たちは囁く。
「だ、大丈夫かしら……?」
「あら。あんなの、いつものことじゃありませんの」
「そうだな。頭をかじられるよりはマシだろう」
「あとで、回復してさしあげればよろしいですわよ」
 ちょうど医療班がいますし、と左隣の肩を優しく触れる。
 だが一人不安そうに、劇の成り行きを見つめる少女は口許に手を寄せ、ひそやかに呟く。
「騎士様がんばって……! なんとか一発逆転よっ!」
 そっちか、と両隣の友と兄は顔を見合わせ、和やかに笑った。
 少女の純粋に輝く瞳は、物語へと熱中している。
 そろそろ悲鳴は涙声。
 劇はいまだに、龍たちのターン。

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「台本が悪い。勇者や騎士が勝つなど、つまらん。くだらん」
「そうですわよ! ここは女トレジャーハンターが大活躍する物語がよろしいと思いますの。
 あら、ここにちょーうどいい原作が! 燃えろいい女!」
「あのねアシュトン、今度は恋愛ものなんてどうかしら。たとえば田舎の少女がいつもの森に行くとね」
「俺は名作の『生きる』を薦める」
「そんなユーウツな話はこどもに受けませんわ!
 次の公演がマーズなら、女紋章術士が主役に決まってますわ!」
「じゃあ回復の紋章術が使える女の子がいてもいいと思うの!」
「逆に、紋章に頼らず生きる剣士はどうだ」
「…………うううぅ。
 ギョロとウルルンが活躍する話にしないと、頭噛むの止めてくれそうにないんだけどなぁ……」

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