たるたるたるたるたるたるたるたるたるたるたるたるたるたるたるたる


「あら、タル。大きいのやら小さいのやら、持ち運んだりしてどうしたの?」
「へ? ……あ! ネーデにはタルがないから! もったいないですよ、タルを知らないなんてっ。
 エクスペルでは、タルは日常に密着した存在です。覚えて損はないですよっ」


「一般的なサイズのタルはバレルって呼ばれてて、ビア樽が多いよね。36ガロンの。(約136リットル)
 クロスではビールが主流だからそうなんだけど、ラクールだとタルが違ってて……」
(うわー、すんごくどうでもいい説明始まっちゃった!)

「小さい子がいっぱい並んでるのもかわいいけど、サルバにあるバットサイズのは、かっこいいよねー!」
「ああ、タックスさんのお屋敷とかの? そういえば酒場の前のいつも眺めてる奴も、結構大きいわよね」
「そうそう。いいよねサルバ! タルの名産地だよ!」
「えーと。サルバには鉱山があるから、労働者が多くて、酒飲みが増えるってことかしら。
 アシュトンってそんなに飲むわけじゃないのに、タルについては細かいわねぇ」
「こういう名前は昔、酒場で路銀稼ぎのバイトしたときに覚えたんだ〜。
 財布落としちゃったのはショックだったけど、タルがいっぱいで幸せだったよ……!
 あ。昔、パンチョンサイズを数時間で飲み干した女の人がいたんですよ」
「げっ。それは、大丈夫なのかしら? 当然アルコールでしょ?」
「平然としてましたー。そうそう、三つ目の女の人だったんだ。人探ししてたんだけど、見つかってたらいいなぁ」

「そうだ! チサトさんにプレゼントしたいものがあるんです! 明日まで待っててください!」
「何よ突然。この流れだと、やっぱりタル関係な予感がするわ」
「えへへ、お楽しみに〜」
(本物が来なきゃいいけど……)

翌朝
「じゃーん、ショルダーバックー! カメラとか小物入れにどうぞ!」
「タル型……ほんとに好きねぇ」
「もちろんです! ほら、使ってみてくださいよ!」

「うわっ中のポケットまで凝ってる! 縫い目細かッ! ブランド品並じゃないの!
 私がこの前セールで買った奴より、ずぅーっとイイわっ。くやしい!
 この刺繍って……ちょっと待って、これ丸ごと一晩でやっちゃったわけ?!」
「はい。楽しくて夢中になっちゃって♪ 肩紐の長さはちょうどいいですか?
 ネーデの布はすごくいいですねー。気に入っちゃった!
 そうそう、ブドウの匂いもほんのーりとするでしょ? 消えるまで楽しめます」
「あ、ほんとだ。ワイン樽ってことね。へぇえー。ほんと、すごいわね」

「うーん。なかなか、かわいい……かも?」
「でしょう? タルかわいいよー! 便利だよー! 最高! 大好き!」
「……うーん、なんだかちょっぴり癪な気もするけど。
 ありがと。大切に使わせてもらうわ」
「よかったぁ。チサトさんに喜んでもらえて、僕も嬉しいです! 末永くかわいがってくださいね!」
「や、やだ、照れるじゃない。
 えーっと。私も何かお礼しないとね〜っ。何がいいかしら」


※一枚目のタル・タルのサイズについては「図説 イギリス 手づくりの生活誌 伝統ある道具と暮らし」より


  
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