オエビログ63
ハーリーの赤龍亭(エラノールPA後漫画の続き)
他の誰かと(クロード自覚前/右反転文)::
「なんだよ、ひさしぶりだなぁ」
よお、という通りがかりの声は聞こえていた。
クロードには、エクスペルでの知り合いはほとんどいない。
関係ないと思っていたら、隣を歩いていたボーマンが立ち止まって声を返したのだ。
そちらを見ると、どうやらボーマンの旧友のようだ。
彼と同じ年頃だろう白衣の男が親しげに、空っぽのフラスコを逆さにして無意味に振っている。
「ばか、俺は結婚したっつっただろうが。祝儀もう一回出させるぞ。合コンは勝手にやれよ」
積もる話もあるだろう、と断ってその場を離れることもできた。
僕の用事を忘れてませんよね、と誘ってその場を離れることもできた。
だが、立ち尽くしてしまった。どなたですか、と話に入ることもなく。
すぐにボーマンは旧友をあしらい、行こうぜとクロードの背を押してくれる。
「うらやましいな」
その衝動のせいだろうか、胸にざわつくものが喉から飛び出てしまった。
「何がだ? ああ。お前、アーリア出身って割にはひとりでぶらぶらしてるもんな」
お前は誰だと鎌をかけられているのか、友達いねぇんだなと率直な感想なのか。平然と言う。
だが、そういう、友達と会えるのが羨ましい、という感情とは全く違うように思えた。
地球の級友に会いたいとは、あまり思わない。
何が『うらやましい』のか、口にしたクロードでさえ判別がつかないところにそれはあった。
友人になりたかった? ボーマンの過去を知りたい?
それもうらやましいと思えるが、あまりに子どもすぎて、もう少し違う気がした。
考えていると、しばらく黙り込んでいたことにふと気付く。
他から見ればボーマンは何も気に留めてはいない姿だが、クロードにとっては、何か言わねばと思えた。
あえて言うならば。
「結婚を祝福できるのって、いいですよね」
「はあ?」
きっと、そこだ。胸を刺したのがそこなのは、口にすることで確信となった。
しかしそれでも、どうしてそれが羨ましいのか、分からない。
どうして自身が、ボーマンの結婚を素直に祝福できないと知っているのか、クロードは分からなかった。
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あせだく
夫婦喧嘩は犬がひっかきまわす
「憧れ、だとか。尊敬だとか、錯覚だとか、幻だとか夢だとか嘘だとか。
それじゃまるで、成就しない恋は、ぜんぶ偽物にされるみたいだ」
『地球同棲で、クロードが炎天下から帰ってきたら最後のアイスをボーマンが今まさに食い終わるとこで
えっ僕のアイスと騒ぎ出すかと思ったらその棒くれるだけで許しますよって言いだしてボーマンは新しく買いに行くから棒はやらんってなぜか拒否って
クロードが炎天下に出掛けさせるのは悪いから今すぐボーマンさんの棒を舐めさせてくださいって言ってる画像』ください。
「……つまり、たったら相手してくれるってことですよね!?」
「試させもしねぇよ!!!寄るな脱ぐな脱がすなビンビンにしてんじゃねえよ!!!」
築いた信頼(右反転会話)::
「おいおい? なんだよ、こんな奥まで無言で連れ込みやがって。
女だったら危険感じてるとこだぜ、やめとけよ〜?」
「男だったら、危険感じないんですか」
「そりゃ、ま、……なんだよ。一体。
ほれほれ、怖い目してんじゃねーよ。何かしたっけか俺? 食いもんの恨みなんか、ねーはずだけど」
「……僕って、食べもののイメージだけなんですか」
「そうか、腹減ってんだろ。よしよし、味噌汁飲みに行くか?」
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無責任なウワサ(サルバにて/右反転会話)::
「花婿には悲惨な話だったけどよ、やっぱ旅の醍醐味はウワサ話にもあるよなぁ」
「あー。でも。本当とは捻じ曲がって伝わったり、とかもー、あるんじゃないですかね?」
「新鮮なうちに現地で聞いてるのにか」
「短い間に、なんであんなに変わっちゃってるんだろう……アレンも訂正しにくいだろうけどさ……」
「何をぶつぶつと。まさかクロードお前」
「いえまさか! 僕は関係ないですよ」
「ははは。だよなぁ。
まっ、ウワサなんて尾びれ背びれなんでもついて、面白おかしくなったやつを楽しむのも一興さ」
「無責任な」
「真相より面白い話のが強いもんさ。
そういや、お前たちが解決したっていう、マーズの誘拐事件も脚色されたウワサになってるぜ」
「え? それはひどいなぁ」
「大丈夫大丈夫。二手に分かれて、子どもの救出と親玉の討伐ってのは間違ってないだろ。
だけどさすがに、幼馴染同士が久々に話すだけで、どっちが大切だよーとか怒らないよなぁ?」
「ちょ、う、あ。もういいかげん反省してるので許してください」
「確かにクロードなら言いそうだとは思ったが、オイオイ。さすが伝承マニアの村だな。正しいのかよ」
「でも、今は、違いますよ! だって僕は」
「だよな。今はもう、んなガキくせーこと言わねーよな!」
「……そうですよっ(今はあなた一筋だから)(なんて、言えない)」
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彼は彼を見つめている(ノースシティにて/右反転文/レナ一人称)::
『とりあえず、のんびりしようかな』
そうして町に入ったクロードは、武器屋の横で、言った通りにのんびりしていた。
のんびり、というよりも、ぼんやり。かしら。なにをするでもなく突っ立ってるだなんて。
私が話しかけても、「静かな町並みだね」なんて、どこか気もそぞろ。
話しかけてようやく、近づいてたことに気づいて驚かれたくらいよ。失礼しちゃうわ。
でも確かに、ここはのどかな町よね。セントラルシティには驚いたけれど、全ての町がああいう姿じゃないんだわ。
いろいろあって疲れたし、これからもいろいろありそうだし、この穏やかな雰囲気に休ませてもらおうかしら。
宿屋へ向かおうと、ふとクロードの視線の先を見ると、ボーマンさんがいた。
向かい道にある食べ物屋の看板脇に立つボーマンさんは、パンをかじりながら本を開いている。きっと、図書館から借りてきた本ね。
その姿をクロードが、ほんの少し離れたここから、じっと見つめていた。
もちろん怖い感じじゃなくて、眺めている、見つめている。でも、それにしては緊張してる。
持ち方からして、パン屑の心配はなさそうだけど。たぶん、そのことじゃないわよね。
ボーマンさんはクロードの視線に気づいていないみたい……
どうして?
いつもあの二人は、仲良く一緒にいるでしょ。いつもみたいに、話しかければいいじゃない。特に喧嘩もしてなかったと思うけど。
ボーマンさんは、熱心にページをめくって、口にくわえたパンは全然動いてないみたい。
勉強に夢中ね。リンガの図書館でもあんな感じだったわ。
話しかけないのはもしかして、邪魔しないように、かしら。
もう。クロードったら、女同士の話には平気で首を突っ込んできたのに、ボーマンさんには本当に優しいんだから。
「ねぇ、クロード」
「……えっ? あ、なに。まだいたんだレナ」
本当に失礼しちゃうわ。
「飲み物でも差し入れしたら?」
聞いた途端にクロードは、ぱっと表情を赤くしてから明るくして、食べ物屋さんを見た。
「いいアイディアかもね!」
「いいアイディアなのよ」
そのまま食べ物屋に、駆け足でクロードが入って行く。
ボーマンさんの前を横切るときには、恥ずかしそうな視線を一瞬だけ送ってる。気づかれてないけれど。
クロードは年上だけど、こんなときはなんだか小さな男の子みたいで、ちょっとかわいいわ。
ボーマンさんと仲良く話してるときが、やっぱり一番楽しそうだものね。失礼な話題で盛り上がってることもあるけど。
あ、出てきた。ふふ、幸せそう。よかった。
……うーん。でもこれって、応援してもいいものなのかしら? ボーマンさんには奥さんがいるし……
って、まさか。そんな意味じゃないわよね。やだ私ったら!
なんでそんなふうに思っちゃったのかしら。
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